2026.09.02

    2日間で全員が形にした──磐田市AXアーキテクト育成の現場

    2日間で全員が形にした──磐田市AXアーキテクト育成の現場

    2026年8月25日(火)・26日(水)の2日間、磐田商工会議所で「AXアーキテクト育成 実証プログラム」が開かれた。磐田市とAlphaDriveによる実証で、地域企業と市職員あわせて14名が参加。草地博昭市長も2日間を通して席に加わった。終了時点で、参加者全員が自社の業務を対象にしたものを一つ形にしている。本記事では、2日間をどう設計し、その場で何が生まれたのかを紹介する。

    操作を覚える研修ではない──AXアーキテクトを、地域の中から

    参加したのは、精密板金メーカー、地元の建設会社、プロラグビークラブ、ばね製造会社、商工団体、そして磐田市の職員6名。講師はAlphaDriveから3名が入った。代表取締役社長 兼 CEO 兼 CAXOの麻生要一、アクセラレーション事業部 PROTOTYPE STUDIO スタジオ長の安部和晃、グループ執行役員(地域共創戦略推進)の宇都宮竜司。

    このプログラムが増やそうとしているのは、AIの操作に詳しい人ではない。AIで事業や組織そのものを変えられる人──AXアーキテクトである。

    前提として、業務を3つの領域に分ける。AIでゲームチェンジを起こせるAX Area。AIでも起こせないHuman Area。デジタルで効率が上がり、AXの前に片づけるDX Area。調査・分析、提案書や見積などの文書作成、図面や写真の処理、デザイン制作はAX Area。顧客との関係構築、経営会議での合意形成、利害調整はHuman Areaに置いた。

    Human Areaは、価値がないから人に残るのではない。現場でしか手に入らない超一次情報(Field Intelligence)と、異分野から持ち込む情報(Crazy Intelligence)。この2つを合わせてPrimal Intelligenceと呼ぶ。これはHuman Areaにしかなく、AX Areaに注入してはじめて、AIの出力が自社のものになる。AI単体では、狙う規模のインパクトは出ない。だから2日間の時間の多くは、講師が教える時間ではなく、各社が自分で決めて自分で動かす時間に割かれている。

    2026年に変わったこと──願えば、作ってくれる

    2025年までのAIは、聞けば答えてくれる相手だった。2026年に変わったのは、願えば作ってくれるようになったこと。AIコーディングが一定の性能に届き、日本語で書ければ数十分でソフトウェアが完成する。完成品の製造コストがゼロに近づいた、という整理である。そこから出てくる進め方が、完成品をつくってすぐ放つFPL(Full-Product Launch)。

    麻生は講義の場で2つ作ってみせた。建設会社向けの耐震補強シミュレーターを、指示文1本から。磐田市のホームページを読み込ませた市民向けの「引越し手続きナビ」を、3分で。

    意味合いは、速さそのものより手前にある。打ち手にはコストがかかるので、これまではどれをやるかを選ぶ必要があった。そのコストが崩れると、全部の打ち手を試せる。ここが変わったところだと説明した。

    1.5倍は改善、100倍は非連続──テーマを一つに絞る

    初日の午後、各社は自社の業務を棚卸しし、「100倍のテーマ」を一つに絞った。1.5倍では人が少し楽になるだけで、今のやり方はそのまま続く。100倍になると今のやり方が成立しなくなり、変えざるを得なくなる。見積が3日から30分になれば、営業のかけ方も、受ける案件の種類も変わる。前者を改善、後者を非連続と呼び分けた。

    型は3つ置いた。かける時間が1/100になる時間圧縮型。出てくるものの中身が変わる質的拡張型。時間が1/10かつ成果が10倍の質量同時改善型。分類することが目的ではなく、考えるためのヒントとして置いている。

    テーマ選びのルールは2つ。効率化でも収益進化でも問わない、ゲートは100倍かどうかの一本だけ。そして、現実的な改善より、届きそうなほうを選ぶ。判定は人がやる。AIは各社の事情を知らないので、手が止まったときに相談するのは有効でも、出てきた答えをそのまま候補にはしない。

    「できないと思っていた」が、その場で形になる

    午後の共有会に並んだのは、コーポレートサイト、業務アプリ、報告資料、交付金申請の支援システム。全員が違うアプローチで、それぞれ形のあるものを持って戻ってきた。

    共有会での発表。2日間でつくったものを、それぞれが自分の言葉で説明した

    参加者の声

    「今までなんとなく触っていて、一方的な壁打ちに使っていたAIが、ホームページ作成やアプリ、報告資料までつくれてしまうなんて知りませんでした!無知って怖いなと思いつつ参加をしてとてもよかったです!」

    「できないと思っていたこと(デザイン等)がこうも簡単に出来るのかというところ。今回の成果物以外でも社内でかなり活用できるのではないかと考えられることがありました。」 

    「2日間という短い間で、参加者全員が全く違うアプローチで形に見える成果が出せるという点が、とても良いことであり、非常に参考になった。」

    市長も、自分でアプリをつくった

    草地博昭市長は、視察や挨拶ではなく、2日間を通して参加者としてプログラムに加わった。講義を聞き、ワークに手を動かし、自身でAIを操作してアプリケーションを一つ作り上げている。

    共有会で発表したのは「災害対策本部シナリオシステム」。首長は災害が起きたとき、自分がどこにいようと対応しなければならない。その前提に立った、首長のための災害対応シミュレーターである。

    首長がAI活用の方針を掲げる自治体は増えたが、方針を語る側が同じ課題を同じ時間だけ手で試した例は多くない。地域の企業と行政が同じ場で、同じ物差しで手を動かした。この構図そのものが、今回の実証の成果のひとつだった。

    総括 次の一手は、地域の側にある

    終了後のアンケート(回答14名)では、全日程に参加した13名の総合満足度が5点満点で4.92だった。数値以上に目を引いたのは、14名全員が翌日以降にやることを具体的な業務名で挙げていたことだ。交付金申請支援システムの開発、コーポレートサイトの刷新、相談カルテの効率化、社外に払っているサービスの内製化。

    要望も出た。実践量をもっと増やしたい。他社の活用事例を見たい。テーマを絞って深く掘りたい。いずれも「足りなかった」ではなく「続きをやりたい」という形をしている。国や自治体への期待としては、活用指針や仕様書の整備、セキュリティの説明、そして「AX大学のような継続教育の場」を求める声が最も多かった。

    今回はあくまで実証である。ここで出た成果と振り返りをもとに、プログラムの中身を作り直しながら、次の地域へ渡していく。2日間の骨組み──領域を分ける、100倍を物差しにする、テーマを1件に落とす、2周まわす、3点セットで発表する──は、業種にも自治体の規模にも依存しない。

    参加企業のうち1社とは、9月から11月まで3か月の伴走支援に入り、12月11日に磐田市役所で報告会を開く。2日間でできたのは、道具を手にして一つ形にしたところまで。事業と組織を変えるのはここからで、その手は地域の側にある。

    お問い合わせ
    株式会社アルファドライブ 広報担当
    https://corp.alphadrive.co.jp/contact/